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東京高等裁判所 平成6年(ラ)25号 決定

主文

原決定を取り消す。

理由

一  本件抗告の趣意及び理由は、別紙「執行抗告状」及び「抗告理由書」の各写し記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によると、次の事実を認めることができる。

(一)  甲川太郎は、もと別紙物件目録二記載の土地(以下「小金井物件」という。)を所有していた。

(二)  甲川太郎は、昭和五六年九月二一日、甲川技研株式会社の物上保証人として、小金井物件につき、抵当権者・中小企業金融公庫、債権額二〇〇〇万円の抵当権を設定し、同年一〇月八日、その旨の登記を経由した。

乙山行男は、昭和五六年九月二一日、甲川技研株式会社の物上保証人として、別紙物件目録一記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)につき、共同担保として右抵当権と同一内容の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し、同月二五日、その旨の登記を経由した。

また、本件抵当権及び小金井物件についての右抵当権は、昭和六〇年二月八日に株式会社埼玉銀行が一部代位弁済をしたことにより、同銀行に一部移転し、小金井物件につき、同月二七日、本件土地建物につき同月一九日、それぞれその旨の登記が経由された。

(三)  甲川キンは、昭和五六年一二月六日、甲川太郎死亡により、小金井物件を相続し、昭和五七年七月一二日、その旨の所有権移転登記を経由した。

(四)  乙山行男は、昭和五六年一二月三一日、甲川技研株式会社の物上保証人として、本件土地建物につき、根抵当権者・株式会社埼玉銀行、極度額一〇〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定し、昭和五七年一月九日、その旨の登記を経由した。

甲川キンは、昭和五七年七月一日、甲川技研株式会社の物上保証人として、小金井物件につき、本件根抵当権と共同担保とする追加の根抵当権を設定し、同月一二日、その旨の登記を経由した。

なお、右各根抵当権は、昭和五九年一二月二七日、元本が確定し、同日その旨の登記がそれぞれ経由されている。

(五)  抗告人は、昭和六二年一〇月三日、甲川キンから小金井物件を買い受け、同月五日、その旨の登記を経由した。

(六)  抗告人は、昭和六二年一〇月三日、小金井物件につき、丙原総業有限会社を抵当権者とし、債権額六〇〇〇万円の抵当権を設定し、昭和六三年四月二二日その旨の登記を経由した。

(七)  小金井物件は、丙原総業有限会社からの競売申立てにより平成元年八月二九日、株式会社丁野に売却され、同月三一日、その旨の登記が経由された。

(八)  平成元年一一月二八日に行われた右競売による配当により、本件抵当権及び本件根抵当権の被担保債権がそれぞれ一部弁済されたこととなつた。

(九)  抗告人は、右配当により、本件抵当権及び本件根抵当権の被担保債権がそれぞれ抗告人により代位弁済されたとし、物上保証人間の求償権の行使として、平成四年七月七日、本件抵当権及び本件根抵当権につき右代位弁済を原因とする移転の付記登記をそれぞれ経由した上、平成五年四月二六日、千葉地方裁判所に対し、本件抵当権及び本件根抵当権に基づく不動産競売開始決定の申し立てをした(平成五年(ケ)第二八〇号)。

同裁判所は、同年八月二日、不動産競売開始決定をした。

以上の事実が認められる。

2  右1で認定した事実に基づき、抗告人のした不動産競売開始決定申立ての適否について判断する。

民法は、弁済による代位の効果として、複数の物上保証人がいる場合において、物上保証人の一人が被担保債務を弁済をしたときは、各不動産の価格に応じて他の物上保証人に代位する旨規定している(民法五〇一条ただし書三号、四号)ところ、ここにいう「物上保証人」には、物上保証人から抵当権ないし根抵当権の目的物を取得した第三者も含まれると解するのを相当とする。民法五〇一条ただし書二号は、抵当権ないし根抵当権の目的物を取得した第三者(以下「第三取得者」という。)は保証人に代位しない旨規定しており、これが物上保証人からの第三取得者と他の物上保証人との間に類推適用ないし準用されるとする見解もあるが、同号の規定の趣旨は、債務者所有の不動産を取得した第三者は債務者と同視すべきであるというところにあるものと解されるところ、債務者ではない物上保証人からその所有の不動産を取得した第三者を債務者と同視することは相当ではないので、右のような見解をとることはできないというべきである。このように解さなければ、本来、一人の物上保証人が被担保債務を弁済した場合にはその求償に応じなければならない負担を負つていた他の物上保証人が、たまたま前者の不動産を第三者が取得することにより、その負担を免れることになる一方で、他の共同担保となる不動産が存在することを考慮して当該不動産を取得した第三者の期待を裏切る結果ともなり、当事者間の公平を害することになるからである。第三者にてき除等の手段が存在することは、右の結論を左右しない。

抗告人は、右1で認定したとおり、甲川技研株式会社の物上保証人である甲川キンから小金井物件を買い受けた第三者であるところ、小金井物件を競売されることにより、甲川技研株式会社の債務を代位弁済したものであるから、物上保証人間の代位の規定に従つて他の物上保証人である乙山行男に求償することができる。したがつて、乙山行男所有にかかる本件土地建物についてした本件不動産競売開始決定の申立ては適法であると認められる。

三  よつて、本件不動産競売開始決定を取り消した原決定は相当でなく、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 清水 湛 裁判官 瀬戸正義 裁判官 小林 正)

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